ワッツタックス!

2006年1月24日
ワッツタックス!
大学の頃から見たいよーと思っていた映画がいつの間にかDVD化されていたので、興奮して購入しました。

ワッツタックス。
WATTSTAXと表記される、1972年に行われたスタックスレーベルアーティストによる黒人音楽のイベント。場所はロサンゼルスのフットボール場です。
1965年にワッツという地区で起こった黒人による暴動(人種差別が発端)から7周年を迎え、「あのときの黒人の怒りや、そこに込められた信念を忘れてないか!ブラザーシスターよ!!」という目的から「WATTS」+「STAX」=「WATTSTAX」とネーミングされて開催されたとのこと。

で、STAXレーベルの話。
黒人音楽業界では、よくMOTOWNレーベル(シュープリームスとかマーヴィン・ゲイ、ジャクソン5がいたトコね)と比較されています。
どちらもアメリカの黒人音楽レーベルなのですが、モータウンはポップス寄りで白人受けを狙い(ジャクソン5の歌なんか、モロにそうでしょ)、大々的に商業戦略を立てていったことで有名なのに対して、スタックスは対照的な立場をとっています。
ゴスペルやブルースが色濃く残る、渋ぅいソウルミュージック。まさに、黒人の黒人による黒人のための音楽を指向しています。ファン層も、圧倒的に黒人です。
代表的なアーティストといえば、アイザック・ヘイズやエモーションズ、ステイプル・シンガーズ、ブッカー・T&ザMGズ、ルーファス・トーマスなどなどで…ってか、こんな感じで日本人にとってはモータウンよりも知名度が低いのがカナシイ特徴でもあります(涙)。
まぁ、端的に言えばとっつきにくいんですよ。日本人好みの味付けと現地の味付けの違い、みたいな感じで。日本人には合わなくても現地の人は大好き!みたいな。
ということで、もしもこのイベントがモータウンによってド派手に開催されていたら、観客動員はワッツタックスを超えたかもしれません。
でもそれは、アメリカ全土の黒人を熱くさせるイベントにはならなかったかもしれません。

本編では、ライブの映像とブラックカルチャーの映像が入り混じって出てきます。
オープニングの音楽はドラマティックスの「What you see is what you get」。昔スタックスのオムニバスCDで聴いたとき、あまりの完成度に背筋がぞわぞわしましたが、ここでも映像と音楽の絡みがカッコよすぎ!!!
多分本編の中でこの冒頭が一番カッコいいところかも(笑)。

そしてオープニング。このイベントが単なる音楽フェスティバルとは一線を画しているということが、ここで際立ちます。
司会者のアジテーション演説(これが沁みます)に続き、スタジアム中にシュプレヒコールが響きます。
「I am somebody!!!」「I am somebody!!!」…一番多く連呼されていた言葉。
和訳の説明では「私はひとかどの人間である」となっていましたが、要するに「俺だって、私だって、その辺の人と一緒だ」ってことです。
自分たちの生きる誇りがどれほど必要か。黒人に生まれたことを心の底から嬉しく思ってみたい。そんな気持ちが黒人の観客をひとつにします。
当時「Black is beautiful」というスローガンが流行しましたが、こんな中で生まれた言葉だったのかな。
司会者がアフリカの民族衣装を着ていたのが印象的でした。アメリカ黒人の先祖の国です。

その後はライブの進行の要所要所に黒人コメディアンのブラックなブラックジョークや、黒人老若男女のさまざまな談話が入っています。彼らが生きる黒人の生きざま。
ワッツの暴動から7年経ってもまだ、みんな差別の中でがんばってきてたんです。

出演アーティストが歌う曲の合間にパッパッと入る映像も象徴的。
ハーレムの道端で遊ぶ子ども。キスするカップル。ミサに出かける人たち。白人によるリンチ事件。「黒人用」と書かれたベンチ。キング牧師。マルコムX。ルイアームストロング。ワッツ暴動の放火。ハーレム地区のいろんな教会。などなど。

アーティストたちの歌は、ほんとうに黒いです。眉間にしわを寄せ、ソウルフルに歌いまくっています。
アイザック・へイズの神様扱いにびっくり。超大物だったんだね。(衣装に要注目!!)
観客もノリノリ。あらためて黒人のリズム感覚って素晴らしい。
だいぶ昔に私自身が「自分は黒人に生まれたかった!」と思っていたことを、ふと思い出してしまいました。
観客の様子もたっぷり映し出されています。踊りに踊って歓声を浴びる客や、当時の黒人独特の握手(それで団結を確かめあったようです)のアツさ等、あ〜この人たちってリアルタイムなんだね〜って感じがしました。

「黒いウッドストック」と評されたワッツタックス。
しかしその中身は甘っちょろいものではなく、とんがってて熱狂的なイベントでした。

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